この記事はこんな方におすすめです。

  • オフショアチームの主体性や責任感に課題を感じているPM・担当者
  • 現地リーダーをもっと成長させたい企業
  • トップダウン型マネジメントに限界を感じている方

こんにちは。ベトナムオフショア開発協会、理事のグェン トアン アンです。

ベトナムをはじめ、海外でのオフショア開発はコスト最適化やリソース確保の手段として一般化しています。しかし、その普及とともに日本企業が直面しているのが、「チームに責任感が育たない」という問題です。

「指示した通りには動くが、自ら提案してくれない」
「決められた作業だけをこなしてしまい、改善が進まない」
「問題が起きても報告が遅れ、自分ごとになっていない」

PMやBrSEの多くが同じ声を上げています。
こうした課題の根本には、日本側が無意識に続けてしまう“トップダウン型の仕事の進め方”があります。

この記事では、オフショアチームの潜在力を引き出し、主体性と責任感を育てる「巻き込み型マネジメント」について解説します。

なぜトップダウン型では「責任感」が育たないのか

①指示は絶対、という文化背景

ベトナムを含む多くのアジア圏では、「上司の指示を正しく実行すること」が高い評価につながります。そのため、指示された以上の判断をする必要性を感じにくく、自ら動くインセンティブが生まれません。

②“失敗の責任”を避けたい心理

細かい指示に従っていれば、もし問題が起きても「指示の通りにやった」と主張できます。
これは、責任を負わずに済む最も安全な行動です。
結果として、意思決定や改善提案をしようとする動機が育ちません。

③目的が共有されず「タスク化」してしまう

仕様書だけが渡され、「なぜこの機能を作るのか」「ユーザーにどんな価値があるか」
という背景が伝わらないケースでは、タスクは単なる作業として処理されます。
目的が見えないため、手戻り防止や改善への意識が生まれにくくなります。

責任感を育てる「巻き込み型」マネジメント

トップダウン型から脱却し、エンジニアが自律的に動けるようになるためには、
プロジェクトの上流からチームを巻き込むことが不可欠です。

以下では、具体的な4つのアプローチを紹介します。

1.企画・要件定義の「Why」を共有する

顧客の声・課題・背景を伝える
仕様書だけを渡すのではなく、顧客がなぜそれを求めているのかを共有します。可能であれば、顧客からのフィードバックや市場背景も伝えると効果的です。

タスクに「目的」を必ず添える
「この機能は何の問題を解決するため?」「誰にとっての価値?」というWhyを伝えると、メンバーは成果物の本質を理解し、認識のズレを自ら補完するようになります。

効果:目的理解が“自分で考える責任”を生む。

2.計画策定とタスク分割を任せる

見積もりを「チーム自身に作らせる」
日本側が工数を決めてしまうと、チームはその枠に従うだけになりがちです。チーム自身に見積もらせ、その根拠を説明させることで、コミットメントの主体が自分たちに移ります。

タスクの割り振りは現場に委ねる
大枠のタスクだけを提示し、細かい分割や担当決めは現地リーダーに任せます。現場の能力を最も理解しているのは現場のリーダーだからです。

効果:計画の「オーナーシップ」が責任感を生む。

3.失敗を責めず、学びに変える

多くのベトナムチームは「失敗=評価が下がる」と捉える傾向があります。この状態では、リスクを避け、指示通りにしか動かなくなってしまいます。

心理的安全性をつくる
失敗時に個人を責めるのではなく、「なぜ起きたのか」「どう改善するか」をチームで議論するスタイルに変えます。

早期報告を“評価ポイント”にする
失敗の事実よりも、報告の速さを評価する仕組みにします。「ミスは仕方ない。報告の遅れはリスク。」という価値観が浸透すれば、報告行動は劇的に改善します。

改善提案を義務化
遅延や問題が起きた場合、「次にどうするべきか?」を本人に考えさせ、提案させます。

効果:失敗を“自分の責任で改善する経験”が成長を促す。

4.現地リーダーに権限を与える

最終レビュー権限を委譲
現地リーダーに、品質レビューや納品判断の権限を与えます。
「任されている」という感覚は、最も強い責任感を生みます。

意思決定の場に招く
重大な判断を日本側が単独で行うのではなく、まず現地リーダーの意見を求め、議論に参加させます。

判断の理由を言語化させる
もし判断が誤っていた場合は、「なぜそう考えたか?」を分析し、意思決定の質を高める機会にします。

効果:リーダーが“本当のリーダー”として育つ。

まとめ

オフショアチームに責任感を育てるには、命令→実行のトップダウン型では足りません。

  • Whyの共有
  • 計画策定の委譲
  • 失敗を責めない文化
  • 権限移譲と意思決定の参加

これらを通じて、チームは「受け身の作業者」から、自律して動ける開発パートナーへと進化します。

巻き込み型マネジメントは、短期的な工数削減以上に、プロジェクトの品質・スピード・改善力を高める“最も効果的な投資”です。

グェン トアン アン(ベトナムオフショア開発協会 理事)

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