
こんにちは。ベトナムオフショア開発協会、理事のLE ANH TUANです。
オフショア開発は、コスト削減や人材確保の面で非常に有効な手段です。
国内のエンジニア不足が深刻化する中、海外の優秀な人材を活用できることは、多くの企業にとって魅力的な選択肢となっています。しかし、異文化・異言語環境での開発では、指示の伝達における小さなズレが思わぬトラブルへと発展することがあります。
特に多くの日本企業が陥るのが、「言ったつもりが伝わらない」という問題です。
「指示したはずなのに、期待した成果物が返ってこない」「なぜここを直してくれないのかがわからない」――そんな経験をしたことはないでしょうか。
この問題の背景には、曖昧な表現や暗黙の前提が存在します。この記事では、曖昧な指示が引き起こす具体的なリスクと、すぐに実践できる改善策を解説します。
この記事はこんな人におすすめです。
1.曖昧な指示が招く具体的リスク

①抽象的な表現の誤解
日本企業でよく使われる「いい感じに仕上げてください」「前回と同じ感じで」といった表現は、一見丁寧に聞こえますが、受け手にとっては非常に抽象的です。
海外チームは日本語の曖昧なニュアンスを読み取ることが難しく、文面通りにしか解釈できない場合があります。その結果、「雰囲気」や「センス」に依存した部分がずれ、完成物が期待とかけ離れてしまうのです。
このようなすれ違いは、言語の問題というよりも“文化の前提”の違いから生じます。曖昧さが好まれる日本と、明確さが重視される国との違いを意識しなければ、誤解は繰り返されます。
②仕様の省略による手戻り
「細かいところは任せる」「必要な機能はわかるだろう」といった省略は、オフショアでは特に危険です。
相手の技術レベルを信頼することは大切ですが、仕様の前提や業務背景を共有せずに進めてしまうと、後の手戻りにつながります。
特にUIや業務フローの微細な部分で、後から「思っていたのと違う」となり、修正に時間とコストがかかるケースが多発しています。
指示を省略した時間よりも、修正対応にかかる時間の方がはるかに大きくなる――これは典型的な“オフショアあるある”です。
③暗黙の期待の不一致
日本では「納期厳守」や「高品質」は当然の前提として共有されていますが、海外チームにとってはそうとは限りません。
納期の優先順位、テスト範囲、品質保証の基準などは、国や企業文化によって異なります。
「これくらいは理解してくれているだろう」と思い込んだ結果、スケジュールの遅延や品質のばらつきが発生することも少なくありません。
“暗黙の了解”を前提にする文化は、異文化環境では通用しないという認識が必要です。
2.実際に起きたケース
ある日本企業では、「ユーザーが直感的に操作できる画面を作ってほしい」と依頼しました。
しかし、海外チームが作成した画面は、機能的には問題がないものの、日本側が想定していたUIデザインとは大きく異なりました。ボタンの配置や色使い、文字の間隔などが日本のユーザー感覚とは合わず、修正に多くの時間とコストがかかったのです。
このように、曖昧な表現や前提の共有不足は、開発の遅延やコスト増大を引き起こす直接的な要因になります。
問題の多くは「スキルの差」ではなく、「認識の差」から生じているのです。

3.曖昧さを排除する具体策

①指示を具体的に書く
「ユーザーがログインしたらメールを送ってください」ではなく、「新規ユーザーが初回ログインしたときに、登録されたメールアドレスに確認メールを自動で送信する」と具体的に記述します。
行動の条件、対象、出力、タイミングを明確に書くことで、受け手が誤解する余地を減らせます。
②成果物の受入基準を明示
「完成」とは何をもって完成とするのかを、プロジェクト開始時に明確にします。
ボタンの配置、表示内容、テストの範囲などを具体的に定義し、誰が見ても同じ基準で判断できるようにしておくことが重要です。曖昧な“完成”定義を放置すると、納品直前で想定外の修正が発生しやすくなります。
③モックアップや図解を活用
言葉だけでは伝わりにくいUIや画面のイメージは、図やワイヤーフレームで可視化します。
「このような形にしたい」という意図を、文章ではなく視覚で示すことで誤解を大幅に減らせます。特にUI・UX関連の指示では、画像1枚が文章100行分の効果を持ちます。
④定期レビューで認識の確認
1〜2週間ごとにスプリントレビューを実施し、成果物を小さく確認していくことで、大きなズレを防ぎます。
初期段階での誤解をそのまま放置すると、後工程での修正が指数的に増えます。「早く確認すること」こそが、最も安価な品質保証です。
⑤用語集を共有
日本語特有の表現や業務用語を整理し、チーム全体で共有します。
たとえば「検収」「仕様変更」「一旦保留」などの言葉は、文化や文脈によって受け取り方が異なります。用語集を一度作成しておけば、メンバーが入れ替わっても同じ理解で開発を進めることができます。
4.まとめ
オフショア開発の失敗は、大きな技術的問題よりも、曖昧な指示から始まる小さな認識のズレによって発生することがほとんどです。
「伝えたつもり」が「伝わっていない」状態を放置すれば、品質・コスト・納期のすべてに影響が及びます。
逆に、指示を明確にし、具体例や図解で意図を共有すれば、海外チームの理解力と提案力を最大限に引き出すことができます。
オフショア開発の成功に必要なのは、特別な技術ではなく、「伝える努力を怠らないこと」です。
“言ったつもり”を“確かに伝わった”に変えることで、チームは距離を越えて一体化し、より強い成果を生み出すことができるでしょう。
LE ANH TUAN(ベトナムオフショア開発協会 理事)
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