オフショア開発の進め方

こんにちは。ベトナムオフショア開発協会運営事務局です。

オフショア開発をしていると、「依頼した仕事はきちんとやってくれる。でも、もう一歩踏み込んで考えてほしい」と感じることがあります。

納期は守る。仕様通りに開発する。依頼したタスクもきちんと完了する。それでも日本側から見ると、「もっと自分ごととして考えてほしい」「問題が起きる前に相談してほしい」「言われたことだけではなく、改善案も出してほしい」と思う場面があります。

こうした状況に直面すると、「オフショアチームは責任感が弱いのではないか」と考えてしまうこともあるかもしれません。しかし実際には、責任感そのものではなく、「責任を持って仕事ができる環境」になっているかどうかが大きく関係しています。

ここでいう「責任感」とは、単に与えられた仕事を最後までやり遂げることだけではありません。問題を見つけたら自分から伝える。より良い方法があれば提案する。必要であれば、自分で判断して行動する。こうした主体性や当事者意識も、チームにおける責任感の一部です。

では、どうすればオフショアチームが「指示されたことをやるチーム」から、「自分たちで考えて動くチーム」へ変わっていくのでしょうか。その鍵の一つが、「巻き込み型」のチームづくりです。

本記事の要点

責任感は「持たせてください」と伝えるだけでは育ちません。意思決定に参加してもらう、目的を共有する、小さく任せる、提案を歓迎する——責任を持てる進め方に変えることが、巻き込み型のチームづくりの出発点です。

01「責任感を持ってください」だけでは、責任感は育たない

「この仕事はあなたの責任です」——そう伝えれば、メンバーは責任感を持つようになるでしょうか。実際には、そう簡単ではありません。

特にオフショア開発では、日本側が顧客との窓口となり、要件を整理し、仕様を決め、タスクを細かく分解して、海外側に「これをお願いします」と依頼する形になりがちです。この進め方には、役割が明確になり進捗も管理しやすくなる、というメリットがあります。

一方で、これが続くと、海外側のメンバーにとってプロジェクトが、「自分たちが考えて進める仕事」ではなく、「日本側から依頼されたタスク」になってしまうことがあります。

すると、問題が発生したときにも、「仕様に書いてありませんでした」「指示された通りに実装しました」「確認を待っていました」という対応になりやすくなります。これは、必ずしも本人に責任感がないからではありません。

最初から意思決定のプロセスに参加していなければ、「自分たちのプロジェクト」という感覚を持つことが難しいからです。責任感を求める前に、まず「責任を持てる立場」をつくる。そこから始める必要があります。

02責任感を育てる第一歩は「決める側」に参加してもらうこと

では、どうすればよいのでしょうか。一つの方法は、オフショアチームを「作業をする側」から「一緒に考え、決める側」へ変えていくことです。

例えば、日本側から「この画面を作ってください」と依頼するだけではなく、「この機能を実現したいのですが、どのような設計がよいと思いますか?」と相談してみる。あるいは、次のような問いかけも有効です。

「この仕様で問題が起きそうなところはありますか?」

「ユーザー目線で改善できそうなところはありますか?」

「開発工数を抑える方法はありますか?」

重要なのは、最初から答えをすべて日本側で決めてしまわないことです。もちろん、すべてを海外側に任せる必要はありません。日本側が最終的な判断をしながらも、そこに至るまでのプロセスにオフショアチームを参加させる。それだけでも、メンバーの視点は変わっていきます。

「言われたものを作る」から、「この目的を実現するには、どうすればよいか」という考え方に変わっていくからです。

03タスクではなく「目的」を共有する

もう一つ重要なのが、「何をするか」だけではなく、「なぜするのか」を共有することです。

例えば、「ログイン画面を作ってください」だけでは、メンバーにとってのゴールは「ログイン画面を完成させること」になります。一方で、「今回のサービスでは、初めて利用するユーザーでも迷わず登録できることを重視しています。そのため、ログイン・新規登録の導線をできるだけシンプルにしたいです」と伝えれば、考える余地が生まれます。

「このUIのほうが分かりやすいのでは?」「入力項目を減らせないでしょうか?」「スマートフォンではこちらのほうが操作しやすいのでは?」といった提案につながる可能性があります。

つまり、「何を作るか」だけではなく、「なぜ作るのか」を共有する。これが、指示待ちの状態から、自ら考える状態へ移行するための重要なポイントです。

開発メンバーが顧客の課題やサービスの目的を理解すれば、単なるコーディング作業ではなく、「顧客の課題を解決するための仕事」として捉えられるようになります。

04いきなり大きな責任を任せない。「小さく任せる」ことから始める

主体性を育てるために、いきなりプロジェクト全体を任せる必要はありません。むしろ、最初は小さな範囲から任せるほうが効果的です。例えば、次のような範囲です。

  • 一つの機能の設計
  • API仕様の検討
  • テストケースの作成
  • UI改善案の提案
  • 小規模な技術調査
  • 開発スケジュールの作成

そして、「この部分は任せます。考えた上で提案してください」と明確に伝えます。任された側が自分で考え、判断し、結果を出す。その経験が積み重なることで、「自分が担当している」→「自分が責任を持つ」→「自分から改善する」という意識が少しずつ生まれてきます。

責任感は、言葉で教えるというより、責任を持って仕事をする経験の積み重ねによって育つものなのです。

05「失敗したら怒られる」環境では、誰も積極的に発言しない

巻き込み型のチームをつくるうえで、非常に重要なのが「失敗への向き合い方」です。

例えば、オフショアチームから「この仕様では問題が起きる可能性があります」という指摘があったとします。ここで日本側が「でも、仕様書にはこう書いてあります」と返してしまったら、次からメンバーは問題に気づいても、わざわざ指摘しなくなるかもしれません。

逆に、「ありがとうございます。どこが問題になりそうですか?」「代替案はありますか?」と聞けば、「意見を出しても大丈夫なんだ」という安心感につながります。

もちろん、すべての提案を採用する必要はありません。重要なのは、「提案したこと」と「問題を早く発見したこと」を評価することです。採用されなかったとしても、「この視点は参考になりました」「今回はこの理由で採用しませんが、指摘ありがとうございます」と伝える。

こうした積み重ねによって、メンバーは少しずつ「問題を見つけたら報告する」「より良い方法があれば提案する」という行動を取るようになります。

06「管理を減らす」のではなく、「管理する対象を変える」

オフショア開発では、品質を担保するために日本側が細かく管理するケースがあります。しかし、細かく指示すればするほど、海外側が判断できる余地は小さくなります。

「この順番でやってください」「この方法で実装してください」「この書き方にしてください」と、すべてを日本側で決めてしまうと、問題が起きたとき「指示された通りにやりました」となりやすくなります。だからといって、管理そのものをなくせばよいわけではありません。

大切なのは、「管理を減らす」のではなく、「管理する対象を変える」ことです。例えば、品質・セキュリティ・納期・顧客要件・コスト・守るべきルールなど、絶対に守らなければならないものは明確にする。その一方で、「その条件をどうやって実現するか」については、一定の裁量を渡す。これが「任せる」ということです。

目的と制約条件は明確にする。しかし、その目的を達成するための方法まで、すべて日本側で決めてしまわない。このバランスが重要です。

07日本側とオフショア側ではなく、「一つのチーム」になる

オフショア開発で起こりやすい問題の一つが、「日本側」と「海外側」という境界線です。

日本側が顧客と話す。海外側が開発する。日本側が仕様を決める。海外側が実装する。日本側が確認する。海外側が修正する。この構造が続くと、どうしても「依頼する側」と「依頼される側」という関係になってしまいます。

しかし本来は、日本側も海外側も、同じ顧客・同じサービス・同じ成果に向かう一つのチームです。そのためには、開発メンバーにもプロジェクトの背景や顧客の課題を共有することが大切です。

「この機能は、お客様のこの業務を改善するために作っています」「このシステムによって、お客様のどんな課題を解決したいのか」といった背景まで共有する。そうすれば、メンバーの視点も、「仕様書に書かれているものを作る」から、「お客様にとってより良いものを作る」へと変わっていきます。

08「責任を追及する」のではなく、「責任を共有する」

責任感を育てるというと、「誰の責任なのかを明確にする」という方向に考えがちです。もちろん、担当者や役割を明確にすることは重要です。しかし、チーム開発では、それだけでは十分ではありません。

むしろ重要なのは、「問題が起きたときに、誰を責めるか」ではなく、「チームとしてどう解決するか」という姿勢です。

例えば、問題が発生したとき、「あなたのミスです」で終わらせるのではなく、「なぜこの問題を早く発見できなかったのか?」「次回からどうすれば防げるのか?」「チームとして何を改善するのか?」まで考える。

そうすることで、個人に責任を押し付けるのではなく、チーム全体で品質に責任を持つ文化をつくることができます。

09「責任感」が育つと、報告の内容も変わっていく

こうした取り組みを続けていくと、少しずつチームの行動が変わってきます。

「仕様に書いてありません」→「仕様にはありませんが、このケースも考慮したほうがよいと思います」

「どうしますか?」→「A案とB案があります。私はA案を推奨します」

「問題が発生しました」→「問題が発生しました。原因・影響範囲・対策案まで整理して提案します」

この変化こそが、主体性や当事者意識が育っているサインです。「報告する」だけではなく、「状況を整理する → 原因を考える → 選択肢を出す → 自分の意見を伝える」ところまで進めば、チームの仕事の質も大きく変わります。

そして、この状態になると、日本側のマネージャーがすべての判断をしなければならない状況も減っていきます。

まとめ:責任感は「持たせる」のではなく、「育てる」

オフショアチームに責任感を持ってもらうために重要なのは、「もっと責任感を持ってください」と伝えることではありません。責任を持てる仕事の進め方に変えることです。

  • タスクだけではなく、目的や背景を共有する
  • 意思決定のプロセスに参加してもらう
  • 小さな仕事から任せる
  • 意見や提案を歓迎する
  • 問題や失敗を責めるだけで終わらせない
  • 守るべき条件と、任せる範囲を明確にする
  • 日本側と海外側を「一つのチーム」として考える

トップダウンで「これをやってください」と指示するだけなら、短期的には効率がよいかもしれません。しかし、それだけでは、長期的に「指示されたことを正確に実行するチーム」から抜け出すことは難しくなります。

一方で、メンバーをプロジェクトに巻き込み、考える機会をつくり、判断できる範囲を少しずつ広げていく。そうすることで、「言われたからやる」から「自分たちのプロジェクトだからやる」へ。チームの意識は少しずつ変わっていきます。

オフショア開発の品質や生産性を高めるうえで重要なのは、単なる技術力だけではありません。国や文化を越えて、同じ目的に向かって「自分ごと」として動けるチームをつくれるか。そのために必要なのは、相手に責任感を求めることだけではありません。

責任を持って考え、発言し、判断できる環境を、チーム全体でつくること——それこそが、オフショア開発を長期的に成功させるための、大きな鍵なのではないでしょうか。