ベトナムオフショア

近年、システム開発やDX推進を目的として、ベトナム企業との協業を選択する日本企業が増えています。その理由として、高い技術力やコスト競争力だけでなく、日本市場への理解が深い企業が増えてきたことも挙げられます。

しかし、プロジェクトを成功させる上で重要なのは、技術や契約条件だけではありません。実際には、仕事に対する考え方やコミュニケーションの取り方、組織文化の違いが、プロジェクト運営に大きな影響を与える場面が少なくありません。

私は日本とベトナム双方の企業文化に触れながら、多くのプロジェクトに携わってきました。その経験から感じるのは、「文化の違い」は問題ではなく、お互いを理解しようとする姿勢が成果を左右するということです。

日本では「当たり前」とされる価値観が、ベトナムでは必ずしも当たり前ではありません。一方で、ベトナムで重視されている考え方が、日本企業にとって新たな組織づくりのヒントになることもあります。本記事では、私自身が実感してきた経験をもとに、日本企業がベトナム企業と協業する際に知っておきたい5つの価値観をご紹介します。

本記事の要点

ベトナム企業との協業では、技術力だけでなく文化や価値観の違いがプロジェクト運営に影響します。社内イベント、上司と部下の距離感、褒める文化、家族を大切にする価値観、キャリアアップへの考え方——5つの視点から、信頼関係づくりのヒントを整理します。

01社内イベントは「福利厚生」ではなく「人材への投資」

日本企業では、社員旅行や懇親会を福利厚生の一環として位置付けている企業が多くあります。一方でベトナム企業では、こうしたイベントは単なるレクリエーションではなく、「チームの結束を強め、生産性を高めるための投資」と考えられることが少なくありません。

VOCの正会員会社の開発拠点でも、スポーツ大会や家族参加型イベント、社員旅行、誕生日会など、年間を通じてさまざまなイベントを開催しています。初めてこれらを目にした日本のお客様からは、「イベントが多いですね」と驚かれることもあります。

しかし、実際に現場を見ると、その目的は非常に明確です。部署を超えた交流が生まれ、新入社員が早くチームに溶け込み、普段は接点の少ないメンバー同士が自然にコミュニケーションを取る機会となっています。

特にオフショア開発では、プロジェクトごとにメンバー構成が変わることも多く、短期間で信頼関係を築くことが重要です。日頃から交流があるチームでは、困ったときに相談しやすく、課題の共有や情報連携もスムーズになります。

また、イベントに家族を招待する文化も特徴的です。社員だけでなく、その家族にも会社を知ってもらうことで、「安心して働ける会社」という認識が生まれ、長期的な定着にもつながっています。

日本企業では「イベントに時間や費用をかけるのは非効率ではないか」と考えられることもあります。しかし、採用競争が激しく優秀な人材の確保が重要となる現在、人材への投資という視点から見ると、その価値は決して小さくありません。

私自身、多くの社員と接する中で、イベント後にチーム内の雰囲気が良くなり、プロジェクトでの連携が円滑になったケースを何度も経験してきました。目に見えない信頼関係を育てることが、結果としてプロジェクト品質や顧客満足度の向上につながっていると感じています。

02上司と部下の距離感は、信頼関係を築く重要な要素

日本企業では、上司と部下の間に一定の距離感を保つことが一般的です。もちろん近年は変化してきていますが、仕事とプライベートを分ける文化は依然として根強く残っています。

一方、ベトナムでは上司は単なる指示を出す存在ではなく、「相談できる存在」「人生の先輩」として捉えられることが少なくありません。仕事の相談だけでなく、将来のキャリアや家庭のことまで相談を受けることがあります。最初は日本企業との違いに驚く方もいますが、こうした日常的なコミュニケーションが信頼関係を築く土台になっています。

例えば、プロジェクトでトラブルが発生した際でも、普段から相談しやすい関係ができているチームでは、問題を一人で抱え込まず、早い段階で共有される傾向があります。その結果、対応が迅速になり、大きな問題へ発展することを防げるケースも少なくありません。

また、ベトナムでは役職に関係なく意見交換を歓迎する雰囲気があります。もちろん組織としての上下関係はありますが、「上司だから絶対に正しい」という考え方ではなく、より良い成果を出すために率直に意見を伝えることが評価される場面も多く見られます。

日本企業から見ると、こうした姿勢は遠慮がないように映ることもあります。しかし、その背景には「より良い仕事をしたい」「チームに貢献したい」という前向きな意識があります。そのため、発言の意図を理解し、建設的な議論として受け止めることが重要です。

私自身も、社員との距離を縮めるために、日頃からできるだけ気軽に話しかけることを意識しています。仕事の話だけでなく、趣味や家族、休日の過ごし方など、何気ない会話を積み重ねることで、相談しやすい雰囲気が生まれます。

03「褒める文化」が社員の成長を後押しする

日本企業では、「改善点を指摘すること」が上司の役割として重視される場面があります。もちろん品質を維持するためには必要なことですが、ベトナムではそれと同じくらい、「良かったことを言葉にして伝えること」が大切にされています。

弊社もベトナムの開発チームでマネジメントを行う中でも、成果を出した社員や、お客様から評価をいただいた社員は、できる限り社内で紹介し、本人にも直接感謝や称賛の言葉を伝えるようにしています。

これは単なるモチベーション向上のためだけではありません。周囲の社員にとっても、「どのような行動が評価されるのか」が明確になり、組織全体の成長につながるからです。

実際に、お客様から「迅速な対応だった」「品質が高かった」といったお褒めの言葉をいただいた際には、その内容をチーム全体へ共有することがあります。評価された社員は自信を持つことができ、周囲のメンバーも「自分も頑張ろう」という前向きな気持ちになります。

一方で、課題が発生した際には、個人を責めるのではなく、「どうすれば次は改善できるか」を一緒に考える姿勢を大切にしています。

特に海外チームとの開発では、文化や言語の違いから認識のずれが生じることもあります。そのような状況で一方的な指摘だけを続けると、社員は発言を控えるようになり、小さな問題が表面化しにくくなる可能性があります。

だからこそ、良い点は積極的に評価し、改善点は建設的に話し合う。このバランスが、長期的な組織づくりには欠かせません。

日本企業でも近年は「心理的安全性」という考え方が注目されていますが、ベトナム企業では日常的なコミュニケーションの中で、それが自然に実践されている場面も多く見られます。こうした文化を理解することで、プロジェクトチーム全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。

04家族を大切にする価値観を理解する

ベトナムでは、「家族」は人生の中心にある存在です。仕事はもちろん重要ですが、その目的の一つは家族を支え、より良い生活を築くことにあります。

そのため、家族の誕生日や子どもの学校行事、親の体調など、家族に関わる予定を優先することは決して珍しいことではありません。日本企業から見ると、「急な休暇が多い」と感じる場面があるかもしれませんが、その背景には家族を第一に考える文化があります。

私たちも日頃から、社員本人だけでなく、その家族にも目を向けるよう心掛けています。家族向けイベントを開催したり、お子さん向けの催しを企画したりすることで、「会社が家族も大切にしてくれている」という安心感につながっています。

この安心感は、結果として社員の定着率やエンゲージメントの向上にも寄与しています。安心して働ける環境があるからこそ、仕事にも集中でき、お客様へのサービス品質向上にもつながるのです。

また、日本企業がベトナム企業と協業する際には、日本の働き方をそのまま当てはめるのではなく、現地の文化や価値観を尊重する姿勢が重要です。相手の事情を理解した上でコミュニケーションを取ることで、より強い信頼関係を築くことができます。

05キャリアアップへの考え方の違い

ベトナムの若い世代は、非常に向上心が高いことでも知られています。「より成長できる環境で働きたい」「新しい技術に挑戦したい」という意欲を持つ人が多く、自身の市場価値を高めることを重視する傾向があります。

そのため、給与だけではなく、「どのような経験が積めるか」「どのような技術を学べるか」「どのようなキャリアを描けるか」が、企業選びや仕事への満足度に大きく影響します。

実際に社員との面談でも、「次はどのようなプロジェクトに挑戦できますか」「この資格取得を目指したい」「AIやクラウドなど新しい分野にも携わりたい」といった相談を受けることが多くあります。

このような前向きな姿勢は、企業にとっても大きな強みです。一方で、成長機会を十分に提供できない場合には、転職を選択するケースも少なくありません。

だからこそ、企業側も「人材を確保する」という考え方だけではなく、「人材を育てる」という視点を持つことが重要です。研修制度や資格取得支援、新技術への挑戦機会などを整えることで、社員の成長意欲に応えられる組織づくりが求められます。

弊社もお客様の案件だけでなく、社内勉強会や技術共有会などを積極的に実施し、社員が継続的に学べる環境づくりを大切にしています。その積み重ねが、高品質なシステム開発やお客様への価値提供につながると考えています。

まとめ

日本企業とベトナム企業では、仕事への向き合い方や価値観に違いがあります。しかし、その違いは「優劣」ではなく、それぞれの文化が育んできた特徴です。

今回ご紹介した「社内イベント」「上司と部下の距離感」「褒める文化」「家族を大切にする価値観」「キャリアアップへの考え方」は、いずれも私自身が日々のマネジメントを通じて実感してきたことです。

異文化への理解を深めることは、単に海外企業との付き合い方を学ぶことではありません。相手を尊重し、多様な価値観を受け入れながら協力する姿勢を育むことでもあります。

ベトナム企業との協業では、技術力や価格だけでなく、「人と人との信頼関係」がプロジェクト成功の鍵を握ります。お互いの文化や働き方を理解し、それぞれの強みを生かしたチームづくりができれば、より大きな成果を生み出すことができるでしょう。

近年、日本とベトナムのビジネス連携はますます活発になっており、製造業やIT、DX・AI分野を中心に、両国の協業は今後さらに広がっていくと考えられます。その中で、文化の違いを障壁ではなく、新たな価値を生み出す機会として捉えることが、グローバルなビジネスを成功へ導く重要なポイントになるはずです。

VOC(一般社団法人ベトナムオフショア開発協会)は、日越企業の架け橋として、オフショア開発やDX・AI活用に関する情報発信、企業同士の交流・マッチング、人材育成などを通じて、両国企業のより良い協業を支援しています。本記事が、日本とベトナムの文化への理解を深め、これからの日越ビジネスを考えるきっかけとなれば幸いです。