こんにちは。ベトナムオフショア開発協会、理事のLE ANH TUANです。
オフショア開発は、コスト削減や人材確保の面で非常に有効な手段です。
国内のエンジニア不足が深刻化する中、海外の優秀な人材を活用できることは、多くの企業にとって魅力的な選択肢となっています。しかし、異文化・異言語環境での開発では、指示の伝達における小さなズレが思わぬトラブルへと発展することがあります。
特に多くの日本企業が陥るのが、「言ったつもりが伝わらない」という問題です。
「指示したはずなのに、期待した成果物が返ってこない」「なぜここを直してくれないのかがわからない」――そんな経験をしたことはないでしょうか。
この問題の背景には、曖昧な表現や暗黙の前提が存在します。この記事では、曖昧な指示が引き起こす具体的なリスクと、すぐに実践できる改善策を解説します。
日本企業でよく使われる「いい感じに仕上げてください」「前回と同じ感じで」といった表現は、一見丁寧に聞こえますが、受け手にとっては非常に抽象的です。
海外チームは日本語の曖昧なニュアンスを読み取ることが難しく、文面通りにしか解釈できない場合があります。その結果、「雰囲気」や「センス」に依存した部分がずれ、完成物が期待とかけ離れてしまうのです。
このようなすれ違いは、言語の問題というよりも“文化の前提”の違いから生じます。曖昧さが好まれる日本と、明確さが重視される国との違いを意識しなければ、誤解は繰り返されます。
「細かいところは任せる」「必要な機能はわかるだろう」といった省略は、オフショアでは特に危険です。
相手の技術レベルを信頼することは大切ですが、仕様の前提や業務背景を共有せずに進めてしまうと、後の手戻りにつながります。
特にUIや業務フローの微細な部分で、後から「思っていたのと違う」となり、修正に時間とコストがかかるケースが多発しています。
指示を省略した時間よりも、修正対応にかかる時間の方がはるかに大きくなる――これは典型的な“オフショアあるある”です。
日本では「納期厳守」や「高品質」は当然の前提として共有されていますが、海外チームにとってはそうとは限りません。
納期の優先順位、テスト範囲、品質保証の基準などは、国や企業文化によって異なります。
「これくらいは理解してくれているだろう」と思い込んだ結果、スケジュールの遅延や品質のばらつきが発生することも少なくありません。
“暗黙の了解”を前提にする文化は、異文化環境では通用しないという認識が必要です。
ある日本企業では、「ユーザーが直感的に操作できる画面を作ってほしい」と依頼しました。
しかし、海外チームが作成した画面は、機能的には問題がないものの、日本側が想定していたUIデザインとは大きく異なりました。ボタンの配置や色使い、文字の間隔などが日本のユーザー感覚とは合わず、修正に多くの時間とコストがかかったのです。
このように、曖昧な表現や前提の共有不足は、開発の遅延やコスト増大を引き起こす直接的な要因になります。
問題の多くは「スキルの差」ではなく、「認識の差」から生じているのです。
「ユーザーがログインしたらメールを送ってください」ではなく、「新規ユーザーが初回ログインしたときに、登録されたメールアドレスに確認メールを自動で送信する」と具体的に記述します。
行動の条件、対象、出力、タイミングを明確に書くことで、受け手が誤解する余地を減らせます。
「完成」とは何をもって完成とするのかを、プロジェクト開始時に明確にします。
ボタンの配置、表示内容、テストの範囲などを具体的に定義し、誰が見ても同じ基準で判断できるようにしておくことが重要です。曖昧な“完成”定義を放置すると、納品直前で想定外の修正が発生しやすくなります。
言葉だけでは伝わりにくいUIや画面のイメージは、図やワイヤーフレームで可視化します。
「このような形にしたい」という意図を、文章ではなく視覚で示すことで誤解を大幅に減らせます。特にUI・UX関連の指示では、画像1枚が文章100行分の効果を持ちます。
1〜2週間ごとにスプリントレビューを実施し、成果物を小さく確認していくことで、大きなズレを防ぎます。
初期段階での誤解をそのまま放置すると、後工程での修正が指数的に増えます。「早く確認すること」こそが、最も安価な品質保証です。
日本語特有の表現や業務用語を整理し、チーム全体で共有します。
たとえば「検収」「仕様変更」「一旦保留」などの言葉は、文化や文脈によって受け取り方が異なります。用語集を一度作成しておけば、メンバーが入れ替わっても同じ理解で開発を進めることができます。
オフショア開発の失敗は、大きな技術的問題よりも、曖昧な指示から始まる小さな認識のズレによって発生することがほとんどです。
「伝えたつもり」が「伝わっていない」状態を放置すれば、品質・コスト・納期のすべてに影響が及びます。
逆に、指示を明確にし、具体例や図解で意図を共有すれば、海外チームの理解力と提案力を最大限に引き出すことができます。
オフショア開発の成功に必要なのは、特別な技術ではなく、「伝える努力を怠らないこと」です。
“言ったつもり”を“確かに伝わった”に変えることで、チームは距離を越えて一体化し、より強い成果を生み出すことができるでしょう。
LE ANH TUAN(ベトナムオフショア開発協会 理事)
ベトナムオフショア開発協会では、日越の協業を進めるうえで役立つ考え方や、現場に基づいた知見を日々発信しています。
本記事の内容も含め、より詳しい情報は会員限定コンテンツとしてお届けしています。
セミナーや視察ツアーのご案内とあわせて、メールにてご案内しています。
こんにちは。ベトナムオフショア開発協会事務局です。
多くの企業がオフショア開発を検討するとき、最初に思い浮かべるのは「コスト削減」ではないでしょうか。確かにかつては、国内よりも安い人件費で開発を進められるという単純な経済合理性がありました。
しかし、同じ発想のままではうまくいかない時代に入っています。単価の安さを最優先にした結果、品質が揺らぎ、チームが崩壊し、結局やり直しのコストが膨らむ――そんな失敗事例を多く見てきました。
オフショア開発の本質は「節約」ではありません。むしろ新しい能力への投資であり、組織の成長を支える手段です。
「海外に出せば安くなる」と言い切れる時代は、すでに終わりました。ベトナムをはじめとする主要なオフショア拠点では、物価と給与が上昇し、単純な価格差は年々縮まっています。しかも、安く依頼すればその分だけリソースの確保や品質へのコミットが弱くなります。つまり、“安さ”を目的にしたオフショアほど高くつくのです。
本来の価値は、コストを圧縮することではなく、より多くを生み出す仕組みを作ることにあります。国内だけでは確保しきれない人材やスピードをどのように取り込むか――ここに「投資」という視点が必要になります。
もちろん、オフショア開発はうまく設計すれば確実にコストダウンにつながります。
ただし、「なぜ安くなるのか」という構造を理解していなければ、思ったほど費用が下がらないという落とし穴があります。
現地側で増える人員(BrSE、QC、翻訳、管理担当など)の工数や、レビュー・コミュニケーションにかかる時間を考慮しなければなりません。
単純に「単価が安い国だから」ではなく、チーム構成・作業分担・運用プロセスの組み方によってコスト効率は大きく変わるのです。
したがって、オフショアを検討する際には“単価の比較”ではなく“コスト構造の比較”を行うことが重要です。
こうした理解を持ったうえで設計すれば、コストを下げながら品質とスピードを両立させることができます。
オフショア開発のコスト構造について、以下の記事で詳しく解説しています。
【オフショア開発のコスト構造を理解する】
オフショア開発の真価は、安価な工数ではなく、チームが積み上げていく学習曲線にあります。
最初の1〜2プロジェクトでは、仕様理解やコミュニケーションに時間がかかり、「コストが思ったより下がらない」と感じることもあるでしょう。しかし、同じチームで案件を重ねるうちに、現場は驚くほど変化します。レビューの指摘が減り、要件把握が速くなり、品質も安定していくのです。
これは偶然ではありません。人が学び、仕組みが成熟していくからです。
特にラボ型開発のような継続契約では、「教育費」や「育成コスト」としての視点が欠かせません。数か月単位で成果を判断するのではなく、“チームを育てる投資”として捉えることが重要です。
多くの企業はオフショア開発を案件単位の損益で評価しようとします。しかしそれは、大学に1年通って「まだ稼げていない」と嘆くようなものです。投資の回収は短期ではなく、チームが成長していく過程で起こります。
たとえば3年スパンで見れば、
1年目:オンボーディング期間。知識共有と信頼関係構築に重点。
2年目:再利用率や自動化率が上がり、設計やテストの生産性が向上。
3年目:現地チームが主体的に改善提案を行い、品質監視も自律化。
このように「学習による効率化」が実現すると、結果的にROIは大きく跳ね上がります。つまり、“開発を回す”のではなく、“開発チームを資産化する”ことが、本当のリターンにつながります。
投資として見ると、得られるリターンはコスト以外の領域にも広がります。
まず、リソース分散によるBCP(事業継続性)の強化です。パンデミックや災害時にも海外拠点が稼働していれば、開発の停滞を防ぐことができます。
次に、国内採用難の緩和があります。慢性的なエンジニア不足の中で、オフショアチームが長期的な開発リソースを担うことは、人的資本への投資と同義です。
さらに、開発スピードの向上や新市場理解といった副次的効果もあります。現地メンバーが持つ柔軟な発想やUI感覚が、日本企業の保守的な開発文化を変えていくことも少なくありません。
これらの効果は損益計算書には載りませんが、確実に企業の競争力を底上げします。
経理上の区分としては外注費であっても、実態は知識と文化への投資です。
重要なのは、費用を削る意識ではなく、価値を積み上げる意識でオフショアを設計することです。
短期的なコスト削減を目的に動くと、ベンダーも「安く早く納める」方向に偏り、イノベーションが生まれにくくなります。
一方、信頼を前提とした長期的な関係を築けば、現地側も自社の一員として成長し、改善提案や品質保証の文化が根付いていきます。
オフショア開発は「外注」ではなく、「組織拡張」の手段です。
それを理解した企業だけが、真の意味でグローバルな開発体制を築くことができます。
オフショア開発を「投資」として見直すと、その姿が一変します。
節約のための外注ではなく、新しい能力を育てるための仕組み。
短期の安さではなく、長期的な学習と信頼を育てる選択。
人材を削るためではなく、未来の仲間を増やすための戦略。
企業がこの発想を持てるかどうかが、オフショア開発の成否を分けます。
そしてそれは、単なるコストの問題ではなく、経営の成熟度の問題でもあるのです。
ベトナムオフショア開発協会では、日越の協業を進めるうえで役立つ考え方や、現場に基づいた知見を日々発信しています。
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こんにちは。ベトナムオフショア開発協会の岸菜です。
ベトナム経済の中心地として、ダイナミックな成長を続けるホーチミン市。この活気あふれる都市で、多くの日系企業が事業を展開しています。
しかし、異国の地でビジネスを円滑に進めるには、法制度や商習慣の違い、行政との連携など、乗り越えるべき課題も少なくありません。
こうした複雑な環境の中で、日系企業の羅針盤として、そして強力なサポーターとして中心的な役割を担っているのが、ホーチミン日本人商工会(JCCH)です。
JCCHの活動は、単なる会員企業の名簿作りや形式的な会合にとどまりません。その真価は、日々のビジネスに直結する実践的なサポートと、人と人との繋がりを育む温かなコミュニティ形成にあります。
JCCHの活動の大きな柱の一つが、会員企業が直面する経営課題を解決するための「投資・事業環境の改善」です。
例えば、税務や労務、許認可に関する具体的な問題点を会員から吸い上げ、ベトナム政府やホーチミン市人民委員会、さらにはビンズン省やドンナイ省といった周辺地域の行政機関と定期的に「ラウンドテーブル」と呼ばれる意見交換会を開催しています。これは、個々の企業では難しい行政への働きかけを、組織として行うことで、日系企業全体のビジネス環境を向上させる重要な取り組みです。
また、めまぐるしく変わるベトナムの法令や税制に対応するため、専門家を招いたセミナーを随時開催。最新情報を的確にキャッチし、事業リスクを管理するための知識を提供しています。これらの活動は、まさにビジネスの最前線で戦う企業にとって、不可欠なインフラと言えるでしょう。
JCCHの強みは、その緻密なネットワークにもあります。貿易、建設、金融、ITといった13の「業種別部会」や、ホーチミン市周辺の各省に設けられた「地域別部会」では、同じ分野や地域で活動する企業同士が、日常的な情報交換や勉強会を行っています。ここでは、成功事例だけでなく、失敗談や現場ならではの悩みも共有され、会員同士が支え合い、共に成長していくための土壌が育まれています。公式なセミナーでは得られない生きた情報が行き交うこの部会活動こそ、JCCHの活動の基盤であり、生命線です。
ビジネスの繋がりをより強固なものにするためには、仕事を超えた人間関係の構築が欠かせません。JCCHは、会員とその家族が一体となって楽しめる大規模な交流イベントも積極的に主催しています。毎年3,000名近くが参加し、企業対抗で熱戦を繰り広げる「JCCH運動会」は、その最たる例です。青空の下、同僚や家族の声援を受けながら汗を流す経験は、組織のチームワークを高め、参加者にとって忘れられない思い出となります。その他にも、和やかな雰囲気でネットワーキングができる「ゴルフ大会」や、在留邦人社会の一大イベントである「新年会」など、年間を通じて多くの交流の機会が設けられています。
JCCHは、ビジネス活動の拠点であるベトナム社会への貢献も忘れません。「社会貢献活動(CSR活動)」として、ホーチミン市内の公園や近隣の海岸で清掃プロジェクトを実施したり、現地の学生たちの日本語学習を支援するために日本語スピーチコンテストに協力したりと、地域に根差した活動を継続しています。また、児童福祉施設への訪問と支援も行っており、日越の文化交流と相互理解を草の根レベルで深めています。これらの活動は、日系企業がベトナム社会の良き一員であることを示す、重要なメッセージとなっています。
JCCHは、ビジネスの課題解決から会員同士の固い絆の構築、そして地域社会への貢献まで、まさに多岐にわたる活動を通じて、ホーチミン市の日系企業コミュニティを力強く支えています。それは単なる経済団体ではなく、日越友好の未来を育む、活気に満ちたプラットフォームだといえます。
岸菜 圭一郎(ベトナムオフショア開発協会 パートナーメンバー)
ベトナムオフショア開発協会では、日越の協業を進めるうえで役立つ考え方や、現場に基づいた知見を日々発信しています。
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こんにちは。ベトナムオフショア開発協会事務局です。
オフショア開発を検討するうえで、最初に気になるのは「コスト」ではないでしょうか。単価の安さに魅力を感じて相談を始める企業は少なくありませんが、実際にプロジェクトが始まると「思ったより高くついた」「予定より時間がかかって人件費がふくらんだ」といった声が聞かれることもあります。なぜこうしたギャップが生まれるのでしょうか。
本記事では、見積書に書かれた「単価」や「合計金額」だけでは判断しきれない、オフショア開発のコスト構造について、その“さわり”を解説します。
オフショア開発では、1人月あたりの単価が国内よりも大幅に安く設定されていることが多く、コスト削減を目的に検討される企業も多いはずです。たとえば、日本国内での開発人月が80万円以上かかるケースでも、ベトナムでは40万円~50万円前後で提供されることがあります。
しかし、単価だけを見て「これは安い」と判断してしまうと、後々になって想定外の追加費用が発生することがあります。たとえば、成果物の品質が十分でなく、追加の修正が必要になったり、テスト段階で不具合が多発し再調整が発生したりと、プロセスの各段階で“見えないコスト”が積み重なっていくのです。
オフショア開発にかかるコストは、単に「実装作業の時間」によって決まるものではありません。実際には、以下のような各プロセスごとに、それぞれコストが発生します。
たとえば、要件定義の段階でヒアリングが不十分だと、後続工程で仕様のズレが発覚し、戻り作業(=余計なコスト)につながります。また、テスト工程を軽視して開発を進めると、不具合対応が本番リリース後に持ち越され、信頼損失や追加費用につながる可能性もあります。
こうしたプロセスごとのコストをあらかじめ想定しておくことで、全体の開発費用をコントロールしやすくなります。
ラボ型:月額固定のチーム契約で、自由度が高いがマネジメント負荷もある
請負型:成果物ベースの契約で、一定の品質が保証されるが変更に弱い
たとえば、要件が流動的なプロジェクトで請負型を選んでしまうと、後からの仕様変更によって追加費用が発生しやすくなります。逆に、ラボ型では仕様変更への柔軟性はありますが、プロジェクト管理や成果物レビューに自社側のリソースが取られ、結果的に「安く見えて高くつく」こともあります。
コストを正しく把握するためには、契約形態と自社の体制の相性を見極めることも必要です。
オフショア開発では、日本側と海外開発チームの間に文化・言語・仕事観の違いが存在するため、品質担保のために追加的なマネジメント工数が必要になることがあります。
こうした“橋渡し作業”は、見積書には記載されないことが多いですが、プロジェクトを安定して進めるためには避けて通れません。この工数を見込まずに進めてしまうと、途中で炎上したり、リリース後に手戻りが発生するなど、長期的なコスト増につながるリスクがあります。
オフショア開発におけるコストの大部分は、実は「契約前の準備段階」で決まると言っても過言ではありません。要件が曖昧なまま進めたり、契約内容が抽象的だったりすると、後から見えないコストが雪だるま式に膨らんでいきます。
「ベトナムは安い」と思い込んでスタートするのではなく、「何に、どれくらいかかるのか」を事前に整理し、準備を整えることが、成功の第一歩になります。
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こんにちは。ベトナムオフショア開発協会、理事の井上です。
ベトナムでのオフショア開発が当たり前となった今、プロジェクトマネージャー(PM)は国境を越えた「すり合わせ」という、課題に直面しています。特にベトナム拠点に常駐するPMは、日本側と現地ベトナム人チームの間に立ち、異なる文化と価値観の板挟みになることが少なくありません。
本稿では、ベトナム拠点PMが直面する具体的な苦労と、その解決策について解説します。
ベトナムと日本では、仕事やプライベートに対する考え方が大きく異なります。この価値観のギャップこそが、PMが最も苦労する「すり合わせ」の根幹にあります。
この違いにより、日本側が「残業してでも間に合わせよう」と指示しても、ベトナム人チームには「なぜそこまで?」という疑問が生じ、モチベーションの低下につながることがあります。
これらの違いは、以下のような形でPMを板挟みにします。
この課題を乗り越えるためには、一方的な指示ではなく、双方の文化を理解し、尊重する姿勢が不可欠です。
曖昧な指示や暗黙の期待をなくすことが第一歩です。
日本側のやり方を一方的に押し付けるのではなく、現地の文化を理解し、適応することが重要です。
ベトナム拠点PMは、単なる管理職ではなく、両文化の「ブリッジ」としての役割を果たす必要があります。
日越間の「すり合わせ」は、単なる文化の違いを乗り越えるだけでなく、プロジェクトマネジメントの本質を問い直す機会でもあります。ベトナム拠点PMがこの板挟みを乗り越えるには、両文化の間に立ち、共感と信頼を基盤とした新たなマネジメントスタイルを確立することが求められます。
井上 拓也(ベトナムオフショア開発協会 理事)
ベトナムオフショア開発協会では、オフショア開発を考えるうえで押さえておきたい考え方や、
現場で得られた実践的な知見を整理して発信しています。
また、当協会主催のセミナーや勉強会、現地視察ツアーのご案内をメールにてお知らせしています。
こんにちは!VOC事務局です。
「そろそろ外注も検討しようか」「リソースが足りないから、オフショア開発を活用したい」。——こうした声は、IT部門を中心に多くの企業で聞かれるようになりました。特にベトナムをはじめとするアジア諸国は、コスト面や人材の豊富さなどからオフショア先として注目を集めています。
しかし、オフショア開発をスムーズに進めるためには、単に「外部に発注すればいい」というものではありません。導入前にきちんと準備をしておくことで、期待していた成果が得られやすくなり、後戻りやトラブルのリスクを減らすことができます。
本記事では、オフショア開発の初期検討フェーズで押さえておきたい5つの準備ポイントを整理してご紹介します。これから初めて外部パートナーと組んで開発を進めようとしている方はもちろん、すでに外注経験がある方にとっても、改めての見直しとしてご活用いただければ幸いです。
最初に確認しておきたいのが、「そもそも、なぜオフショアを選ぶのか」という根本的な問いです。人手不足の解消、コストの最適化、スピードの向上、24時間開発体制の構築、特定領域の技術獲得など、企業によって動機はさまざまです。
この段階で大切なのは、「目的をできる限り明確に言語化しておくこと」。たとえば「コスト削減」が目的であっても、単に単価が安いという理由だけで判断すると、成果物の品質やコミュニケーションコストで想定以上の手戻りが発生する場合もあります。
また、「継続的な保守体制を構築したい」といった中長期的な視点と、「とりあえず一部だけ切り出して試したい」という短期視点とでは、選ぶべき契約形態やパートナー像も変わってきます。
目的を明確にすれば、パートナー選定や進め方の判断軸がブレにくくなります。社内で合意形成を得るためにも、まずは自社にとってのオフショア導入の意味を整理しておきましょう。
オフショア開発は「外に出す」ことだけで完結するものではありません。むしろ、社内に残す役割と外部に委ねる範囲を明確に線引きする必要があります。
たとえば、以下のような観点から棚卸しを行うと良いでしょう:
- 要件定義や仕様書作成は社内で行うのか、それとも外部パートナーに任せるのか
- プロジェクトマネジメント(進捗管理・レビュー対応など)はどの程度巻き取れるか
- エンジニアとのコミュニケーションを担当する役割は誰が担うか
- 時差・文化差・言語差に起因する認識のズレを、どこで吸収するか
特に初めてオフショアを導入する場合、「PMやBrSEを入れても、結局社内に意思決定が集まりすぎて詰まってしまった」というケースがよくあります。外部に期待する役割と、自社で担うべき責任範囲を早めにすり合わせておくことで、開発のボトルネックを未然に防ぐことができます。
オフショア導入時に課題としてよく挙がるのが、「認識のズレ」です。「ちゃんと伝えたつもりだった」「これくらいは理解してくれていると思った」といった前提がズレたまま進んでしまうと、手戻りやトラブルの原因になってしまいます。
この問題を回避するためには、「誰が・どの情報を・どのタイミングで・どんな手段で共有するのか」を事前に設計しておくことが大切です。
たとえば:
また、文書のバージョン管理や、会話のログを残す文化が整っていないと、「言った/言わない」のトラブルになりやすくなります。最低限のコミュニケーションルールを明文化しておくことは、特に海外のチームとの協働では大きな助けになります。
いきなりフルスケールで委託するのではなく、「まずは一部だけ切り出して試してみる」戦略は、オフショア導入において非常に有効です。たとえば以下のようなスモールスタートが考えられます。
スモールスタートの目的は、パートナー企業との相性を確認することだけではありません。社内の関係者が「外部と協働するとはどういうことか」を実感し、文化や進め方の違いを肌感で理解することも大きなメリットです。
「一度試してみて、うまくいけば徐々に拡大していく」——このステップを挟むだけで、導入へのハードルは大きく下がります。
最後に挙げたいのが、「いざというとき、どこに相談できるか」を把握しておくことです。
特に初めてオフショア開発を導入する企業にとっては、「そもそもどの企業に相談すればいいのか」「相場感が分からない」「社内稟議にどう通せばいいのか」など、技術以前の悩みが数多く出てきます。
VOCでは、こうした悩みを持つ企業向けに、ベトナムオフショアに関する基礎情報、導入の進め方、パートナー選定の考え方などを整理した情報を発信しています。さらに、企業ごとのニーズに合わせて、信頼性の高い現地企業をご紹介するマッチング支援も行っています。
「わからないことを、誰にどう聞けばいいか分からない」という状態こそが、オフショア導入における最大のリスクかもしれません。判断に迷った際に相談できる窓口を持っておくことで、安心して次のステップに進めるようになります。
いかがでしたか?
オフショア開発は、単なる「安く発注できる手段」ではありません。目的や役割分担、進め方の整備、関係者の意識など、多くの準備があってこそ、ようやく本来の価値を発揮します。
今回ご紹介した5つの観点は、導入を成功に導くための出発点です。まずは自社の状況と照らし合わせて、できるところから着手してみてはいかがでしょうか。
ベトナムオフショア開発協会(VOC)では、こうした現地最新情報や企業事例を会員限定で提供しています。厳しい審査基準を通過した現地企業とのマッチング支援も実施中です。
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こんにちは!VOC事務局です。
「ちゃんと伝えたはずなのに、なぜかズレている」「たしかに確認したのに、認識が違っていた」
これは、海外の開発チームと仕事をしていると、誰もが一度は経験する感覚ではないでしょうか。
たとえば、日本側がSlackで送った質問がなかなか返ってこなかったり、週明けに確認したタスクが、思っていた形と違うものに仕上がっていたり。確認しても「これは言われてない」「その認識はなかった」と返ってくると、思わずイライラしてしまうこともあります。
このような“伝わったつもり”と“受け取ったつもり”のズレは、単に「説明が足りなかった」「スキル不足だった」という話では片付きません。背景には、時差・言語・文化という3つの大きな壁があり、私たちが普段あまり意識しない“前提の違い”が横たわっています。
海外のチームと良好な協働体制を築くためには、この見えづらい壁に気づき、丁寧に乗り越えていく必要があります。
この記事では、海外開発チームとの仕事で起きやすいズレの正体を紐解きながら、現場でできる具体的な工夫や考え方を共有していきます。
海外チームとの協働において、最初に直面するのが時差の壁です。特にアジア圏(ベトナム、フィリピン、インドなど)では、日本との時差は1~3時間程度と小さく感じるかもしれませんが、実際の業務においては想像以上に大きな影響を及ぼします。
たとえば、夕方に日本側が確認のメッセージを送ると、相手がそれを読むのは翌日の朝になります。すると、返事が返ってくるのはさらにその数時間後。1つのやりとりに1営業日かかることも珍しくありません。
これにより、以下のような現象が起こりがちです。
このような状態が続くと、プロジェクト全体のスピード感が失われ、両者にとってストレスが溜まる原因になります。
もうひとつありがちなのが、「質問したけど返事がない」「資料を送ったのに何も反応がない」といった“無視されたように見える”状態です。
これも時差によって、ただまだ見ていない・確認できていないだけということが少なくありません。しかし、発信側は「読んでないの?」「無視された?」と感じてしまいがちです。
この認識のズレは、コミュニケーションの信頼関係にヒビを入れてしまうため、予防が必要です。
こうした問題を防ぐためには、単に「早めに投げる」だけでは不十分です。
チーム全体で「時差がある前提でどう情報を回すか」を仕組みとして設計しておくことが重要です。
たとえば:
また、「読んだらリアクションをつける」「確認したらスタンプ」といった、簡易なアクションをルール化するだけでも、誤解やイライラを防ぐ効果があります。
海外チームとの協働でしばしば課題になるのが、言語の壁です。
多くのベトナム人エンジニアは日本語検定N3〜N2レベルのスキルを持ち、日本語での会話やチャットがある程度できる人も増えています。BrSE(ブリッジSE)を通じたコミュニケーションも一般化しており、「言葉が通じないから難しい」という時代ではなくなりました。
しかし実際には、“言葉が通じても、意図が伝わらない”という問題がしばしば起きます。
たとえば、「そこは臨機応変でいいよ」「可能であれば〇〇してください」というような表現は、日本の開発現場ではよく使われます。しかし、これを翻訳するとどうなるでしょうか?
日本語では文脈や空気で補われるあいまいな表現も、翻訳を通すと意味が削ぎ落とされてしまうのです。しかも、それが設計書やタスク指示など“業務の根幹”で起きると、作業結果に大きなズレが生まれてしまいます。
もうひとつの問題は、報連相の粒度です。
これは「文化」でもあり、「言語習慣」でもあります。とくにBrSEが橋渡しをしている場合、エンジニア→BrSE→日本側と伝言ゲーム的に報告が伝わるため、ニュアンスの微妙な違いが生じやすくなります。
BrSEは「日本語ができるだけでなく、ITの知識もある」貴重な人材です。ただし、彼らが全能なわけではありません。
たとえば「デグレ」「機能間連携」「疎通確認」などの日本特有の用語は、BrSE自身がその業務を体験していないと正確に伝えきれないこともあります。
“言語が通じても、文化が違えば通じない”――
これは海外チームと仕事をするなかで、しばしば直面する現実です。
たとえば、こんな経験はないでしょうか?
「ここ、明らかに仕様と違うよね?」
「あ、そうですね。実は途中で気づいていたんですが…」
これは、「言えばよかったのに!」と思うところですが、ベトナム側からすると“余計なことかもと思って黙っていた”という意識であることも少なくありません。
日本では「気づいたら報告する」のが当然とされますが、海外では「自分の担当ではないことには触れない」という文化もあります。
もうひとつよくあるギャップが、「どこまで指示しないと動けないのか」です。
日本人の感覚では、「これって、普通こうするよね?」と思うことも、ベトナム側では「それは指示されていないからやらない」という判断になることがあります。
こうした“あいまいな責任”の扱い方に対する認識が、日本とベトナムでは異なることが多いのです。
日本では、仕事の進め方において「空気を読む」「言わなくても分かるだろう」が強く根付いています。しかし、海外のメンバーにとっては、それはただの説明不足に映ります。
海外チームと協働する際は、「察してくれるだろう」ではなく、「自分から言語化して共有する」姿勢が求められます。
ここまで見てきたように、海外開発チームとの“ズレ”は、時差・言語・文化といった目に見えにくい要素によって引き起こされます。これを完全にゼロにすることは難しいですが、「起きにくくする」「起きてもすぐに気づいて対応できる」仕組みづくりは可能です。
ズレを防ぐ最大のポイントは、会話ベースの共有から“記録ベース”の共有へ移行することです。
こうした「見える化」によって、認識の確認とすり合わせが“仕組み化”されるため、個人の記憶や言葉に頼る必要がなくなります。
日本の現場では、「伝えたから終わり」「言ったんだから分かってるはず」という前提になりがちです。
しかし、海外との協働では「相手がどう受け取ったか」にまで目を向けなければ、すれ違いはなくなりません。
たとえば:
こうした工夫を“面倒”と感じるかもしれませんが、1回のすれ違いが生む損失を考えれば、事前共有の方がはるかに効率的です。
「BrSEが優秀だから大丈夫」「PMが確認してくれるはず」と属人的な期待に頼ると、ボトルネックやトラブルの火種になります。
理想は、「誰がどこでズレに気づいても対応できる」状態を目指すことです。そのために:
ズレのない協働は、“1人の頑張り”ではなく、“チームの習慣”によって実現されます。
いかがでしたか?
海外チームとの協働には、どうしても“ズレ”がつきものです。
ただし、それは「相手が悪い」でも「自分の伝え方が下手」でもなく、前提が異なるからこそ自然に生まれるものでもあります。
そのズレを見ないふりをするのではなく、前提にしたうえで仕組み・ルール・習慣で補うことが、健全な協働の第一歩です。
ときには、すれ違いにイライラしたり、不安になったりすることもあるかもしれません。でも、だからこそ「ちゃんと伝わる」喜びや、「一緒に前に進んでいる」という実感が生まれるのもまた、海外協働の醍醐味です。
ベトナムオフショア開発協会(VOC)では、こうした現地最新情報や企業事例を会員限定で提供しています。厳しい審査基準を通過した現地企業とのマッチング支援も実施中です。
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こんにちは!VOC事務局です。
オフショア開発を初めて経験する企業担当者にとって、最初にぶつかる壁は「専門用語」かもしれません。聞き慣れないカタカナ語、契約形式の違い、役割の名称──そのどれもが曖昧な理解のままプロジェクトをスタートさせると、誤解やミスに直結します。
たとえば「BrSEが対応します」と言われても、その役割を明確に理解していなければ、「何をどこまで任せていいのか」「自社側でどこまで説明すべきか」が分からず、気付けば想定外の成果物が上がってきた…という事態にもなりかねません。
オフショアでは文化も言葉も異なります。だからこそ「同じ言葉で同じことを指している」という前提をつくることが大事です。この記事では、はじめてのオフショア導入担当者が最低限知っておくべき10の基本用語を、背景や現場のあるあると一緒に解説します。
オフショア開発では、言語が違うのはもちろん、文化も常識も仕事の進め方も異なります。日本ではあうんの呼吸や“空気を読む”コミュニケーションが成り立っていても、ベトナムではそれがまったく通じない、というのはごく自然なことです。
たとえば、日本では「PM」と言えば“全体を取り仕切るプロジェクト責任者”を指すことが多いですが、現地では“連絡係”くらいに解釈されていることもあります。逆に「QC」という言葉は、日本では「納品前のチェック係」くらいの意味でとらえられがちですが、ベトナムでは開発工程全体に関与するテスト設計者という意味で使われています。
つまり、同じ言葉でも前提がまったく違うことがあるのです。
だからこそ、用語の理解は“知識”ではなく、“コミュニケーション基盤”です。ここから、現場で必ず出てくる10のキーワードを1つずつ丁寧に解説していきます。
まずは基本の基本。オフショア開発とは、海外の企業やチームに開発業務を委託することを指します。対象国としては、ベトナム・インド・フィリピンなどが多く選ばれており、その背景にはコスト・人材・スピードといったメリットがあります。
ただし、“安さ”だけで選ぶと危険です。技術力、コミュニケーション、体制など、価格以外の要素こそが成功/失敗を分けます。オフショアは単なる「外注」ではなく、パートナーとの協働であるという前提が重要です。
▼こちらの記事でオフショア開発の意味やメリットを分かりやすく解説しています▼
【簡単解説】オフショア開発とは?意味やメリットを5分で分かりやすくご紹介!
ラボ型とは、月単位でエンジニアの稼働枠を確保し、柔軟にタスクを指示できる契約形態です。大きなメリットは、仕様変更に対応しやすいこと。特にアジャイル開発や長期のシステム保守で有効です。
しかしその一方で、仕様が曖昧なまま走り出してしまい、“なんとなく開発が進むが完成が見えない”状態になることも。成果物管理の意識が薄れると、クオリティもスケジュールも曖昧になります。
ラボ型を成功させるためには、定例ミーティングで進捗を可視化し、目的と優先順位を常に共有する体制づくりが不可欠です。
請負型は、仕様と納期をあらかじめ確定し、それに応じた成果物を納品する契約形態です。メリットは、スコープと価格が明確な点。しかし仕様が決まりきっていない段階でこの形式を採用すると、途中変更が難しくなり、追加コストや納期遅延が発生するリスクもあります。
また、発注側が「請負なら全部やってくれる」と考えてしまうのも失敗のもと。要件定義の粒度が粗すぎると、受け手は仕様を補完できず、想定と異なるものが上がってきます。
請負型では、“完璧な設計書”が最大の成功要因と言っても過言ではありません。
▼こちらの記事で開発契約の種類について詳しく解説しています▼
【外注初心者必見】開発契約の種類と選び方をわかりやすく紹介
BrSEとは、日本側と現地側の橋渡しをするエンジニアのこと。日本語ができて、技術的な理解もあり、さらに文化的なニュアンスまで読み取ってくれる——そんな万能キャラとして期待されがちですが、当然個人差があります。
誤解されやすいのは、「BrSEがいるから全部伝わる」と安心してしまうこと。実際には、発注側が細かく背景を説明しなければ、BrSEも正確に翻訳できません。また、BrSEに頼りすぎると属人化しやすく、本人が抜けた途端にプロジェクトが崩れるというリスクも。
BrSEは頼る存在ではなく、一緒に翻訳・調整していくパートナーとして位置づけるのが理想です。
▼こちらの記事でBrSE(ブリッジSE)の仕事内容について詳しく解説しています▼
オフショア開発のブリッジSE(BrSE)の仕事内容をご紹介
QCは、ソフトウェアの品質を担保する専門職です。バグを見つけるだけでなく、テストケースを設計し、リリース前に抜け漏れがないかを確認する役割も担います。
日本では開発者がテストも兼任するケースが多いですが、ベトナムではQCが独立して機能しているケースが一般的です。QCの成熟度によっては、「開発が終わった=すぐ納品」ではなく、「QCで1週間かかる」という前提を持つ必要があります。
プロジェクトの後半フェーズで納期がタイトになると、QC工程が削られることもありますが、それは品質低下を招く典型パターンです。
PMと聞くと、日本では「全部を統括してくれる責任者」というイメージを持つ方が多いかもしれません。ですが、ベトナム側のPMは“調整役”に近い立場で、要件定義や仕様策定は別のSEやBrSEが担当していることもあります。
この違いに気づかず、「PMに任せておけば安心」と思っていたら、誰も仕様の細部まで見ていなかった…という事態も珍しくありません。契約書やプロジェクト開始時のミーティングでは、PMの担当範囲を明文化することが欠かせません。
エスカレーションとは、トラブルや判断が難しい案件が発生した際、速やかに上位層へ報告・相談することです。日本では「小さな火種のうちに相談する」文化がありますが、ベトナムでは「黙って対処してみる」「問題と気づかない」ケースも少なくありません。
特に若手エンジニアがトラブルを抱えたまま期限を迎え、「進捗が順調です」と報告しながら実は全然動いていなかった、というケースもあります。
このギャップを防ぐためには、「こういうときは必ず報告」「進捗が止まったらすぐ相談」といったルールを明確にし、報告しやすい雰囲気と評価制度を設ける必要があります。
オフショア開発では、要件定義書が命です。日本語で曖昧なまま進めてしまうと、伝わらないどころか誤解されてしまいます。
たとえば「ある程度柔軟に対応できる構成で」とか「違和感がないように」など、感覚的な表現はそのまま翻訳されても意味が通じません。数字・画面遷移・業務フローなど、視覚的に確認できる情報を添えることがとても重要です。
また、現地メンバーとの打ち合わせの中で不明点があれば、確認を受け身にせず、こちらからも定義の粒度を調整していく姿勢が求められます。
初期段階でコストを抑える目的で、BrSEではなく「通訳者」を介してやり取りするケースもあります。もちろん、IT用語に精通した通訳者がいれば成立しますが、たいていはそうではなく、単に言語を訳すだけのケースが多いです。
結果として、技術的な背景や文脈が伝わらず、誤解が生じやすくなります。最悪なのは「通訳が訳してくれたから伝わったはず」と思い込んでしまうこと。双方に齟齬があっても、そのまま進行してしまうのです。
この形式は長期プロジェクトには向いておらず、将来的にはBrSE配置や社内に日本語スピーカーを育成する方向にシフトすべきでしょう。
最後に、言語以上にやっかいなのが文化的なズレです。
- 日本:「確認しました」→内容を把握した
- ベトナム:「確認しました」→読んだけど理解していないかも
- 日本:「納期は間に合わせます」→調整してでもやり切る
- ベトナム:「できます」→できるか分からないけど前向きに言っておく
このように、“同じ言葉”でも背景にある価値観が異なるため、ミスコミュニケーションが起きやすいのです。
「曖昧な表現を避ける」「確認は文書で行う」「Yesでも詳細確認する」など、文化ギャップを埋める工夫をすることで、誤解と衝突を防ぐことができます。
▼こちらの記事でオフショア開発を行う上での5つのリスクについて詳しく解説しています▼
オフショア開発に潜む5つのリスク 失敗しないコツを押さえよう!
用語を正しく理解していても、それがチーム内で共有されていなければ意味がありません。特にオフショア開発では、「現地メンバーはわかっていると思っていた」「別の拠点では違う意味で使われていた」といった齟齬が起きがちです。
そこで有効なのが以下のような取り組みです。
この記事で紹介した10の用語は、すべて現場で頻繁に登場する基本中の基本です。
しかし、その意味や使われ方はチームや国によって微妙に異なり、放置すればプロジェクト全体に影響を及ぼします。
「言葉なんてわかるでしょ」ではなく、
「“このチームで”こう定義して使っている」という共通認識の醸成が、成功の土台になります。
そして、これはベテラン向けの話ではなく、むしろ初めてオフショアを担当する方こそ最初に知っておくべきことです。
ベトナムオフショア開発協会(VOC)では、こうした現地最新情報や企業事例を会員限定で提供しています。厳しい審査基準を通過した現地企業とのマッチング支援も実施中です。
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こんにちは!VOC事務局です。
近年、ベトナムは日本企業にとってもっとも選ばれるオフショア開発先のひとつとなっています。特に「日本企業向けに最適化された体制を持つ」ベンダーが増え、その対応力は年々高まっています。しかし、なぜベトナムはここまで「日本特化型」へと進化したのでしょうか?
本記事ではその理由を、両国の関係性・企業戦略・人材育成の観点から紐解いていきます。
もともと日本とベトナムには、オフショア開発を進めやすい土壌がありました。まず地理的に近く、時差も2時間程度と少ないです。加えて、ODAや日越経済連携協定(EPA)などを通じて、政府レベルでも人的交流や経済支援が活発でした。
特に注目すべきは「日本語を学ぶ若者の多さ」です。ベトナムには日本語学習者が40万人以上(国際交流基金 2021年発表)おり、そのうち多くがIT企業でBrSE(ブリッジSE)やQC(品質管理)として活躍しています。このような背景から、日系企業との協業を見越した“日本語IT人材”の育成が早くから進められてきました。
さらに、教育制度や職業訓練の面でも日本との接点が広がっています。近年では、ベトナム国内で日本企業と連携した工科大学のITカリキュラムや、日本語教育を取り入れた専門学校も登場しており、人材の質的向上に寄与しています。こうした制度的な下支えが、「日本企業と仕事をすること」をキャリアの選択肢として自然に受け入れる風土を形成しているのです。
JETROの調査によりますと、ベトナムに進出する日系企業数はこの10年で倍増しており、その多くがIT・製造・サービス業を中心とする中小企業です。中でもオフショア開発を目的とした進出や提携が目立ちます。
この傾向は、単なる価格競争力だけでなく、ベトナム側の受け入れ体制の整備や、日本企業に対する高い適応力が影響していると考えられます。
▼ベトナムIT人材の実力と可能性について以下の記事で詳しく解説しています▼
日本企業が注目するベトナムIT人材の実力と可能性
では、なぜ他国ではなくベトナムが“日本特化型”に進化できたのでしょうか?そこにはベンダー側の「適応力と継続的な工夫」がありました。
たとえば、日本の開発現場では、詳細な設計書やレビュー、緻密な進捗管理が求められます。これに対応するため、ベトナムの企業では日本語での設計書作成やテストエビデンスの標準化が行われるようになりました。さらに、バグ検出から再改修、再レビューといった品質保証のサイクルも、日本企業のフローに合わせて構築されています。
特に特徴的なのが、BrSEやQCの存在です。日本語を理解し、仕様を咀嚼して開発チームに橋渡しできる人材は、もはやベトナムオフショアの標準装備となっています。日本企業が求めるホウレンソウや暗黙の了解、レビュー文化といった慣習も、BrSEが介在することで現地に伝わりやすくなり、品質の維持につながっています。
これに加えて、現地ベンダーの多くが長年にわたり日本企業との協業を通じて、文化・言語・業務プロセスの違いを乗り越える知見を蓄積してきました。その成果が、現在のように「初めてでも安心して任せられる」体制の構築につながっているのです。
実際に日本企業と長年協業してきたベトナムの現地企業の中には、プロジェクトの初期段階から日本人SEが関与し、数件の案件を経てフェードアウトするモデルを取り入れている企業もあります。設計段階ではモックアップや仕様レビューを通じて齟齬を解消し、実装段階では設計書の翻訳や規約・仕様の二重レビューを行う体制を整えています。
また、QCメンバーが日本語のドキュメントを読み解きながらテスト観点を立てる力を持ち、ホウレンソウやエスカレーションのルールを事前に合意するなど、日本式のプロジェクト運営に柔軟に対応しています。
さらに、日本企業とのやり取りを重ねる中で、各社ごとに異なる進行スタイルや納品基準に対応する力も磨かれてきました。マニュアルに記載されていない“空気を読む”といった、日本的な期待値への対応まで含めて、体制に落とし込んでいる企業もあります。
このような特化は、偶然ではなく、ベンダー側による戦略的な取り組みの結果です。多くのベトナム企業が社内で日本語研修を実施したり、BrSEを計画的に育成したりしてきました。ラボ型開発による長期的な協業の中で、失敗事例をナレッジ化し、日本式のドキュメントテンプレートを導入するといった工夫を積み重ねています。
結果として、現在ではベンダー側のエンジニアが日本市場を理解し、設計段階から提案に関与する場面も増えています。
このようにして培われた「信頼の積み重ね」が、ベトナムと日本の間で独自のオフショア文化を築いてきたのです。その関係性は、単なる発注・受注の関係を超えた“協業”のステージに入りつつあります。
かつては「日本企業が教える/ベトナム企業が学ぶ」という構図が一般的でした。しかし現在では、BrSEやPMが要件定義や設計から積極的に関与し、日本側をリードする場面も珍しくありません。
この変化は、ベンダー側だけでなく、日本企業側にも意識改革を求めています。たとえば、設計や運用の委譲範囲を対話の中で柔軟に調整したり、コストよりも品質と信頼を重視した選定を行ったりする姿勢が求められます。育成の対象ではなく、協働するパートナーとしてベトナムチームと向き合うことが、今後の成功の鍵となるでしょう。
実際に、VOC会員企業の中には「以前よりもベトナム側からの提案が増え、やり取りがスムーズになった」という声もあります。日本企業が“コントロールする側”から“共に創る側”へとスタンスを変えることで、より高度で柔軟な開発体制が実現されているのです。
日本市場向けの文化や工程、価値観にベトナム側が合わせてきた結果、「日本特化型オフショア」というポジションが築かれました。そしてその特化は、技術対応だけでなく、育成や仕組み、マインドセットを含めた進化と呼べるものです。
その一方で、今後は人材の流動性や賃金上昇といった新たな課題にも直面することが予想されます。ベトナムオフショアがこの先も日本企業にとって最適な選択肢であり続けるためには、技術力だけでなく、パートナーシップの柔軟性や信頼関係の深化がますます重要になるでしょう。
これからオフショアを検討する企業にとって、進化したベトナムは有力な選択肢のひとつとなるはずです。
ベトナムオフショア開発協会(VOC)では、こうした現地最新情報や企業事例を会員限定で提供しています。厳しい審査基準を通過した現地企業とのマッチング支援も実施中です。
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こんにちは!VOC事務局です。
国内のIT人材不足が深刻化する中で、オフショア開発は「開発スピードを上げたい」「人材コストを抑えたい」という企業にとって重要な選択肢になっています。
その中でも近年、日本企業から圧倒的な支持を集めているのがベトナムです。
かつてオフショア先といえば、中国の豊富な人材やインドの高度な技術力が主流でした。しかし現在、日本企業の視線はベトナムに移りつつあります。理由は単なるコストの安さではありません。国家レベルでIT産業を支援し、日本市場を強く意識した人材育成が進んでいるからです。
この記事では、ベトナム政府が進めるIT支援策の概要と、それが日本企業にどのようなメリットをもたらすのかを解説します。
ベトナム政府は、デジタル経済を国家成長の柱と位置づけています。情報通信省(MIC)が発表した「デジタル経済発展計画2021-2030」では、2030年までにデジタル経済がGDPの30%を占めることを目標に掲げ、特にソフトウェア産業とICT人材の育成を最優先課題としています。
国家IT戦略の主なポイントは以下の通りです。
このように、ベトナムの国家IT戦略は単なる「人材の量」を増やすだけではなく、質の向上と日本市場を意識した体制整備が特徴です。
▼オフショア開発のよくある失敗例について以下の記事で詳しく解説しています▼
オフショア開発に潜む5つのリスク|失敗しないコツを押さえよう!
こうした国家戦略は、日本企業にとって次の3つの大きなメリットをもたらします。
① 安定したIT人材供給
ICT人材の総数は、2018年の約88万人から2024年には約150万人まで増加しました。そのうちソフトウェアエンジニアは約53万人に達し、毎年5万人以上のIT関連新卒者が市場に輩出されています。特に20代を中心とした若年層が多く、モダンな技術を吸収するスピードが速いのが特徴です。
② 品質管理・技術力向上の推進
政府支援を受けた開発企業では、ISO/IECやCMMIなど国際標準の品質管理を導入する事例が増えています。AI、クラウド(AWS・Azure)、データサイエンスといった先端分野の研修プログラムも拡充されており、単なる下請けから上流工程への関与が可能な人材が増えています。
③ 日系企業誘致の積極支援
ベトナム政府は日系企業を重要なパートナーと位置づけ、税制優遇やJETROとの連携プログラムを実施しています。これにより、日本語対応が可能なブリッジSEの育成や、日系企業に特化した運用体制を持つ企業が急増しています。
ベトナムのICT市場の成長はデータにも明確に表れています。
たとえば、ICT製品やハイテク機器の輸出額は2022年に1,090億ドルに達し、国家輸出全体の約35%を占めるまでに成長しました。サムスンやインテルといったグローバル企業の投資もその後押しとなっています。
また、ベトナム政府は「デジタル経済」をGDPの中核に位置づけ、2022年の15.4%から2030年には30%を目指す国家戦略を打ち出しています。
これらの数字は、単なる一時的なブームではなく、国家主導でIT産業が成長し続けていることを示しています。
いかがでしたか?
ベトナムが日本企業から支持される理由は、コストの安さだけではありません。国家戦略としてIT産業を育成し、日本市場に特化した人材供給体制を築いている点が最大の強みです。
若く優秀なエンジニアが安定的に供給され、品質管理も国際標準化が進んでいる現在、ベトナムは長期的に信頼できるオフショアパートナーとしてますます存在感を高めています。
ベトナムオフショア開発協会(VOC)では、こうした現地最新情報や企業事例を会員限定で提供しています。厳しい審査基準を通過した現地企業とのマッチング支援も実施中です。
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